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お好みソースには先輩がいる。お多福のお酢は85歳。お好みソースは71歳。

オタフクソースは2023年11月26日、101歳になりました。
今ではソースメーカーとしての印象が強い当社ですが、最初につくったのはお酢。
お好みソースが誕生したのはそれから14年後のことです。
お酢は当社の創業商品。これをつくったから今の当社があり、お好みソースがあります。


当社とお酢の歴史

創業者夫婦の願い
「幸せを売れたらええねぇ」
商いを始めるとき、創業者の佐々木清一に、妻・ハヤがかけた言葉です。
幼いころから子守や奉公などをして苦労を重ねていた清一は、いつか自分の店を持ち、「多くの人に喜んでいただきたい」。そう考えていました。
1922年、その夢が叶ったのです。
佐々木商店では醤油類の卸と酒の小売をしながら、数種類の醤油をお客様の好みに調合したものも販売していました。1930年ごろには、桶買いした辛口と甘口の日本酒をブレンドして販売し、「佐々木商店のものはうまい」と、お客様から高い評判をいただいたようです。
そして、鍛錬を続けたこの「ブレンドする技術」を活かし、「もっと多くの人に喜んでいただきたい」と本格的にものづくりに挑戦することを考え始め、新しい夢を抱きます。

創業当時の佐々木商店。中央が創業者・佐々木清一と妻・ハヤ

ものづくり黎明期
そのころ、広島には軍需品の補給や輸送を統括する兵站司令部が置かれ、宇品港は輸送基地となり、軍都として活気づいていました。「広島の軍需部から醸造酢の製造要請が出た」という情報もあり、酢づくりを候補として考えていました。ほどなくして佐々木商店は広島県から要請を受けます。
そして、1938年、清一の新たな夢は時代に背中を押され、ものづくりが始まりました。
 
「お多福酢」の誕生
醸造酢を一からつくるために、清一は奔走します。人手を集め、酢蔵をつくり、原料を集め、麹を育て、発酵させて酒もろみをつくり、米酢へと仕上げる。独学で体得しながら、社員らと試行錯誤します。良質の水にこだわり、発酵方法を改良し続け、知恵と汗の結晶である米酢ができあがりました。
銘柄にもずいぶん悩んだそうです。そして、あるときひらめいたのが「お多福酢」でした。佐々木商店をともに始め、いつも応援してくれたハヤの笑顔、多くの人が喜んでくださる笑顔を願っていたからこそ、この名前に結びついたのかもしれません。
ものづくりの始まりは、後に社名となる「オタフク」の始まりでもあります。

この「お多福酢」が宇品港を経由してフィリピンなどに納められていたことは清一の誇りであったと、記録が残っています。世界中でオタフクの商品を扱っていただけるようになった今、創業者はきっと喜んでくれているだろうな・・と思います。
 
そして、1945年。
原爆投下により、佐々木商店も、酢蔵も、清一たちの家も全焼します。
当面は家族一丸となって食堂を運営し、軌道に乗せると、翌年の春、別の場所にある酒蔵を賃借して醸造酢の製造を再開しました。

「お多福酢」。オタフクの顔には、現在のシンボルマークの面影があります

お多福造酢株式会社と商品開発
1952年には工場を移転し、新設。
そして「お多福造酢(おたふくぞうす)株式会社」を設立しました。
お多福酢を造る会社、「お多福造酢株式会社」。
ぞうす・・・そうす・・・ソース・・・。
この名づけのセンス、手前味噌ですが素晴らしいと思いませんか!?

ちょうどこのころ、当社はソースづくりにチャレンジし始めていました。けれど試行錯誤のまっさなかで、まだ先が見えていなかったころ。ソースが事業になるとは、まだ誰も考えられなかったはずです。(この話しはまた改めて・・・)

さて。
お多福造酢株式会社は、1955年には合せ酢の「寿司酢」を発売します。このころには、清一の子どもたちも入社し、よりいっそうものづくりに邁進していました。
そして、広島市内の寿司店や食堂を訪ねて現状を知り、「誰がつくってもおいしい寿司になれば、みんなに喜んでもらえる」と願いを込めて、開発に取り組みます。「まずは寿司の作り方を学ばせていただくことだ」と考え、連日店に通って、親方や職人、女将らと人間関係を築きながら味をつくりあげました。

この寿司酢に続く商品として、同年に誕生したのが「らっきょう酢」です。大量のらっきょうを実際に漬けて試作と研究を重ねました。そして、塩漬け、塩抜きという難しい工程をなくして、らっきょう本来のおいしさを残して漬けることができる「お多福酢 らっきょう用」が完成します。多くのご家庭で「毎年おいしいらっきょうが漬けられる」と好評をいただきました。

清一のブレンドの技を子どもたちや社員が受け継ぎ、形になっていきました。

麴入れ作業をする創業者・佐々木清一(右)と五男の佐々木照雄(当社4代目代表取締役社長)


美味しい水が縁を結び、大和へ

1986年、広島県賀茂郡大和町から、工場建設を誘致していただきます。
このころ当社の商品はお好みソースを中心に全国へ展開できるようになっており、生産量が増え、広島市西区商工センターの本社工場(1978年に移転)は手狭になっていました。そして、大和町へ工場を全面移転する計画に着手します。豊かな自然環境、不純物の少ない良質な軟水で生産できることが最大の決め手でした。
ところが造成工事直前に古墳が出土。他の場所に工場を全面移転することも考えましたが、水がもっとも重要な原材料であるお酢はこの理想的な自然環境のもと、この水でつくりたいという思い、そして大和町とのご縁を諦めることができませんでした。
そこで、予定地の約五分の一のみを造成して造酢専用工場のみを建設することにし、1990年、大和工場は完成しました。

太古の人々もおいしい水を求めてここで暮らしていたのかもしれませんね。

森の中にあるお多福醸造大和工場

このようにさまざまな出来事を経ながら、私たちは85年間、お多福のお酢をつくり続けてきました。
広島にゆかりのない方、若い方には、お好みソースのようなおなじみの存在ではないかもしれません。
でも、これをつくったからお好みソースがある、オタフクがある。
そう考えると、お多福のお酢を知っていただきたい。食べて喜んでいただきたい、そして、これからも大切につくり続けたい。その思いはよりいっそう強いものになります。

お多福のお酢をご紹介します                                                      

コマーシャルになってしまいそうですが・・・
実は・・・おいしいのです。
お多福のお酢。
 
大和工場は広島市内からは高速道路を東へ、車で1時間半程度。広島空港からなら車で約30分。
(広島空港をご存じの方はきっと想像がつくと思います)大和町は緑がとても豊かで、初夏には蛍が舞う美しい川が流れています。
 
きっとこの環境がおいしいお酢の理由だろう・・・ということは、なんとなくわかっていました。なんとなく。

なぜなら、お酢は93.3%が水でできているから。(*1)

ということは・・・、
「お酢のおいしさは、おいしい水が決め手になる。大和の水は確かにおいしいけど、本当にそうなの?」と考えました。
そして、改めてお多福醸造大和工場周辺の水を調査しました。
 
すると・・・・出ました!
おいしい水の根拠。

 
この調査の結果は、お多福グループでお酢の醸造を担う、お多福醸造株式会社のウェブサイトで紹介しています。
 お多福醸造 | オタフクソース株式会社 | オタフクソース (otafuku.co.jp)

コンセプトは「みずに、まじめで。」 です。
そして、①水 ②環境 ③製造方法をポイントとして、お多福酢の「おいしさのひみつ」をまとめました。
 
調査を依頼したのは、玉川大学 農学部 先端食農学科 講師の佐々木慧先生(*2)です。
佐々木先生には「お水ハカセ」としてサイト上にも登場いただき、助手のマモルくんとともにわかりやすく解説していただきました。これらの情報は7本の動画(YouTubeショート)にもまとめ、ふたりの微笑ましい掛け合いにより構成しています。(サイト上で公開)

大和工場。中央にお水ハカセと助手、左右はお多福醸造でお酢づくりに取り組む社員(2023年撮影)


これからも、私たちは大和の水とともに、豊かな自然を大切にしながら、まじめにお酢づくりを続け、お酢の醸造の文化を継承、発信し、製品を通じてお客様に喜んでいただけるよう取り組んでまいります。

酢は万能調味料                                                          
 この大和工場で醸造した酢は、広島市西区の本社工場へ運び、充填。(合せ酢は調合してから充填)
そして、お好みソースなどの原材料としても使用します。
そうなんです。お酢とお好みソース、先輩と後輩の絆にはこんな関係性もあるんです。
 
現在、当社の家庭用の酢・調味酢のラインアップは17品目あります。
商品情報(酢) | オタフクソース (otafuku.co.jp)
 
調味酢は、らっきょう、なます、千枚漬け、ピクルス、南蛮漬けなど。商品名にそれぞれのメニュー名をつけているものが多くあります。
そのメニューが最もおいしくなるように、また、漬ける・かけるなど用途に合わせて、砂糖や食塩などを配合しています。甘味や塩味などの好みには個人差もあり、また日本を東西で分けて考えたとき。西の方が甘い味を好まれる方が多いそうです。
そのため「らっきょう酢で酢飯をつくる」など、汎用してくださる料理上手なお客様もいらっしゃいます。
 
「酢といえば、酢のもの」というイメージですが、お好みソースの原材料としての一面もあるように、炒め物や煮物などにも使用できるほか、ドレッシングにも応用できる万能調味料です。
例えば、こんな料理に・・・。

まっかなトマトの簡単サラダ
鶏肉の照り煮

ぜひ、日々の食事に、お酢を使ってみてくださいね。
遠くに大和町の景色を思い浮かべながら。
 
 
 
 
*1 日本食品標準成分表2020年版(八訂)穀物酢より
*2 佐々木慧先生プロフィール/玉川大学 農学部先端食農学科 講師。2014年広島大学生物圏科学研究科修了。博士(農学)。2014~2015年原子力イニシアティブ学術研究員。2015~2022年広島国際学院大学 食農・バイオリサイクル学部 講師。2022年4月~現職。広島県内の各地の名水鑑定を行っている。また、水質と醸造の関係について着目し、2017年に軟水醸造法に関する記事を生物工学会誌で執筆。